電動機の騒音解析

はじめに

騒音解析は,電動機で動くシステムを設計する際に重要な局面である.モータが回転するとロータとステータの間の調和電磁力がモータのアウターケーシングを連続的に変形させる.この周期的な変形により構造的な振動が起こり,それが騒音として圧力波を周囲に送り出す.

次のモデルはで回転するモータからの音波放出のシミュレーションである.まず周囲場の音圧レベル(SPL)を計算して騒音生成を数量化する.次のステップで領域内に防音壁を置き特定方向の騒音を減少させる.結果の音圧場は,防音壁の効果を測定するための空き空間に相当する.

関連した例である,電動機内の磁位と磁束場のシミュレーションは「有限要素法で偏微分方程式を解く」というノートブックで紹介している.

このチュートリアルで使用した記号と対応する単位は用語集のセクションにまとめてある.

音響学の理論的な情報は「周波数領域における音響学」をご参照いただきたい.

有限要素パッケージをロードする.

圧力音響モデル

電動機の時間調和変形をモデル化するために,周波数領域で音響モデルを構築する.調和音波の伝播はソースフリーのヘルムホルツ偏微分方程式(PDE) (1)で説明することができる:

変数を定義し,周波数領域音響モデルののパラメータを選ぶ.
音の媒体として空気を使う.
音響PDEの材料パラメータを定義する.

領域

角周波数 で回転するモータで,ロータとステータの間の電磁力はモータのアウターケーシングを連続的に変形させると考える.この周期的変形 は余弦関数でほぼ説明できる:

このモデルではモータの最大の径方向への変形は と設定する. はモータの速度 とは関係ないと想定される.このモータの固有周波数は高周波数範囲で非常に密に充填されており,構造的変形にはほぼ影響がないので,これは妥当な近似である.

固有周波数解析についての情報は「周波数領域における音響学」チュートリアルに記載してある.

極角度 軸からモーターケーシング上の点までを測定した角度として定義される:

周辺部分への騒音伝播を解析するために,シミュレーション領域を電動機を取り囲む円領域として定義する.モータと領域の半径はそれぞれ である.遠方場境界とモーターケーシングはそれぞれで表す.

立体パラメータと2D領域を設定する.

音響シミュレーションでは,正確な数値解を得るために音波の波長 は十分に細かいメッシュで解かなければならない.ここでは について最大辺長12を設定する.つまり波の伝播の各方向において,波長 につき少なくとも12個の要素があるということである.

音響モデルで必要なメッシュサイズの詳細は「周波数領域における音響学」チュートリアルに記載してある.

最大のモータ速度 に基づいて最小の波長 を計算する.
領域を離散化する.

境界条件

この例には2種類の境界条件が関わっている.モーターケーシング上では,構造振動をモデル化するために法線速度境界条件が使われている.

ケーシングの変形は以下のように余弦関数でほぼ説明できる:

解析の簡便性のため,方程式(2)を複素指数表現(CER)に変換する:

対応する振動速度 および速度振幅 は以下で与えられる:

上の説明に基づいて極角度 と速度振幅 を設定する.
モーターケーシング上に法線速度境界条件を設定する.

遠方場境界上には,領域が無限に拡張するかのような,その領域を切り取る吸収境界条件を設定する.

遠方場境界吸収境界条件を設定する.
境界条件の立体パラメータを置き換える.

防音壁のないモデル

まず防音壁のない音圧場について解く.

モデルに材料特性を挿入する.
モータ速度 の音響モデルを解く.

モータ周辺の音波の伝播を可視化するために,調和波関係(3)を使って解を時間領域に変換する:

時間領域と周波数領域の間の関係についてはここに記載してある.

におけるモータ周辺の音波伝播を可視化する..

アニメーションの質を向上させる方法はこちらをご覧いただきたい.

音波はモータから放射され,渦巻きパターンで周辺部分に伝播する.騒音分布を調べるために,領域の音圧レベル(SPL)をプロットすることができる.距離 での騒音レベルはSPL極プロットで示される.

領域の音圧レベルを調べる.

SPL値モータケーシング付近で最大になり,モータからの距離とともに等方的に減衰する.騒音レベルはモータ速度が大きくなるほど上昇する.

騒音レベルは次の単位変換によってデシベルで表すこともできる:

ここで は標準音圧で,空気中では一般に20マイクロパスカルが選ばれる.

モータ速度 のときの における騒音レベルをデシベルで計算する.

での騒音レベルはモータ速度とともに上昇し,ではに達する.これはジェットエンジンの騒音に匹敵する.

防音壁のあるモデル

次に領域内に防音壁を加え,特定方向のモータ騒音を低下させる.防音壁は に置き, 方向の騒音を最小化する.

防音壁のある2D領域を定義する.
領域の境界を設定し離散化する.

このモデルでは防音壁は,入射音波を反射することのできるsound hard材料でできていると想定する.壁の境界をモデル化するためにデフォルトの境界条件であるsound hard境界条件を使う.

モータ速度のときの音響モデルを解く.
でのモータ周辺の音波の伝播を可視化する.

アニメーションの質を向上させる方法はこちらをご覧いただきたい.

領域の音圧場を調べる.

騒音レベルは3つのモータ速度すべてで 方向のの間で大きく減少する.しかし,反対側の領域では,壁からの音の反射により騒音レベルは上昇している.

用語集

記号説明単位
Rモータにおける1分間あたりの回転数[rad/s]
ρ媒体の密度[kg/m3]
c媒体内の音速[m/s]
p音圧[Pa]
ω音波の角周波数[rad/s]
f音波の周波数[Hz]
λ音の波長[m]
X位置ベクトル[m]
rmotorモータの半径[m]
rdomain領域の半径[m]
δモータケーシングの変形[m]
d最大の径方向の変形[m]
ϕ極角度[rad]
Γout遠方場境界N/A
ΓcasingモータケーシングN/A
v振動速度[m/s]
振動振幅[m/s]
Ω計算領域N/A