室内の固有振動数

はじめに

音響共鳴とは,比較的小さい音波にさらされたオブジェクトが,その音波を大きく増幅させるときに発生する現象である.この共鳴は,刺激の振動数がオブジェクトの固有振動数の一つに合致したときに現れる.共鳴するとき振動の振幅はずっと大きくなる傾向があるため,オブジェクトがその固有振動数で振動するとき,オブジェクトに疲労や破損が生じる可能性が高まる.例えば繊細なワイングラスが固有振動数で振動するようにされると,壊れる可能性がある.楽器,音響フィルタ,コンサートホール等,共鳴を利用(あるいは防止)する音響系を設計する場合,固有振動数解析を考慮に入れることが大切である.

例として,家具のある長方形(xxx)の部屋を考える.最初の5つの固有振動数を数値的に求め,家具のない部屋の解析固有振動数と比較する.それぞれの固有振動数における対応する固有モードを可視化して,部屋の共鳴音場を示す.

ここで使われる記号およびそれに対応する単位は用語集セクションに要約してある.

音響学の一般的な理論は,「周波数領域における音響学」に記載されている.

有限要素パッケージをロードする.

固有系音響モデル

固有振動数解析は周波数領域モデルで行う.周波数領域では音響系の音圧場 ヘルムホルツ偏微分方程式(PDE)で説明される:

ここで項 および はそれぞれ単極音源二重極音源である.

この室内モデルには音源がないので,方程式(1)はsource-freeのヘルムホルツ方程式に簡約される:

室内の固有振動数 および固有モード について解くために,方程式(2)は である固有値問題として扱い,NDEigensystemで解く.ここで微分演算子 は(3)の左辺に対応し,は固有系の固有値を表す.

source-freeのヘルムホルツ方程式を満たす固有値 の集合は,次の式によって対応する固有振動数 を与える:

または

変数を定義し,時間領域音響モデルののパラメータを選ぶ.
音の媒体として空気を使う.
時間領域音響モデルのパラメータを定義する.

領域

室内モデルは長さ ,幅 ,高さ である.部屋にはソファ,コーヒーテーブル,テレビを置いて簡単な居間にする.壁,家具,床等の境界面はすべて固体であると仮定し,sound hard境界条件でモデル化する.

外部で生成された室内モデルを調べる.

しかしこの室内モデルはシミュレーション領域の境界を表すため,直接音響シミュレーションに適用することはできない.実際の音響シミュレーション領域は,屋内の音の媒体(空気)で満たされた空間である.

以下で,空気で満たされた空間に類似した境界メッシュをインポートする.

空気で満たされた領域の境界メッシュをインポートする.

音響シミュレーションでは,正確な数値解を得るために音波の波長 は十分に細かいメッシュで解く必要がある.ここで最大辺長を 当たり12ノードに設定する.これは波の伝播の各方向において波長 当たり少なくとも6個の要素があるということである.

音響モデルについてのメッシュサイズの必要条件は「周波数領域における音響学」に記載されている.

関心のある最大周波数 に従うメッシュ要素サイズ を設定する.
室内モデルの完全メッシュを生成する.

境界条件

部屋の境界面はすべて完全な固体と仮定するため,このモデルに関わる唯一の境界条件はsound hard境界条件である.

sound hard境界条件の設定を調べる.

sound hard境界条件は実質的にノイマンのゼロ境界である.つまり指定された境界で他の境界条件が指定されていない場合は,その境界条件がデフォルトで使われるということである.

PDEモデルを解く

室内モデルの音響挙動を解析するために,固有値/固有関数の最初の5つのペアについてNDEigensystemで解く.

5つの最小の固有値と固有関数についてNDEigensystemで解く.
5つの最小の固有値を調べる.

後処理と可視化

家具付きの部屋の固有振動数

前述の通り,source-freeのヘルムホルツ方程式を満たす固有値 の集合は,以下によって対応する固有振動数 を与える:

部屋の固有振動数 まで丸めて計算する.

周波数領域が高くなると,2つの連続する固有振動数の間のギャップは減少する.

家具付きの部屋の固有モード

次に家具付きの部屋の共鳴音場を可視化する.それぞれの固有振動数 とペアになった音圧場 は室内固有モードと呼ばれる.

家具付きの部屋の固有モード を可視化する.

アニメーションの質を向上させる方法はこちらでご覧いただきたい.

時間領域における音響学」で示した通り,音圧がその極大値に達する場所は音響系の腹と呼ばれる.これらの点における音源が音場を最も振動させるため,スピーカーを置くのに理想的な場所である.

家具のない部屋の解析固有振動数/固有モード

比較として家具のない部屋の解析固有振動数を調べることができる.家具のない長方形()の部屋の固有振動数は式[4]で計算することができる:

モード指数, , は三つ組みの正の整数である.モード指数の一意のそれぞれの組合せにより部屋の特定の固有振動数が決まる.

ここでは,家具のない室内モデルの最初の5つの固有振動数はモード指数に対応する:

家具のない部屋の最初の5つの解析固有振動数 を計算する.

次の表は,家具のある部屋とない部屋の最初の5つの固有振動数をまとめたものである.慣例により最初の非零の固有振動数はモード1として表され,部屋の基本振動数または基本成分と呼ばれる.

最初の5つのモードでは,家具付きの部屋の固有振動数は家具なしの部屋のものに非常に近い.つまり,低周波数範囲では部屋の固有振動数に対する家具の影響はほとんどない.

家具なしの部屋の解析固有モード は式[5]で与えられる:

ここで は任意の定数である.

家具なしの部屋の最初の5つの解析固有モード を計算する.
家具なしの部屋の解析固有モード を可視化する.

アニメーションの質を向上させる方法はこちらでご覧いただきたい.

家具なしの部屋と家具付きの部屋(前のセクションを参照)の固有モードを比べると,家具の影響が見られる.例えば,モード4では家具なしの部屋で一様に分布した音場をソファが破壊し,その背後に最大音圧を閉じ込めている.

用語集

記号説明単位
ρ媒体の密度[kg/m3]
c媒体内の音速[m/s]
p音圧[Pa]
pii番目の固有モード[Pa]
ω音波の角周波数[rad/s]
f音波の周波数[Hz]
fii番目の固有振動数[Hz]
F最適な二重極源[N/m3]
Q最適な単極源[1/s2]
X位置ベクトル[m]
λ波長[m]
hメッシュサイズ[m]
Lx,Ly,Lz部屋の寸法[m]
nx,ny,nzモード指数N/A
Ω計算領域N/A

参考文献

1.  Heutschi, Kurt. Lecture Notes on Acoustics I. Swiss Federal Institute of Technology Zurich, 2016.