熱移動モデルの検証テスト

このノートブックには,熱移動偏微分方程式(PDE)モデルが想定通りに動作することを検証するためのテストが含まれている.すべてのテストを実行するためにはすべてを選択してShift+Enterを押す.結果はテスト結果の検査のセクションで見られる.

これらのテストは,自分で熱移動モデルを開発するときの基盤としても使える.したがって,テストは定常(時間非依存)および過渡(時間依存)にグループ分けしてある.どちらのグループにも一次元および二次元のテストがある.

どちらのテストグループにも検査のために後処理の結果を提供する可視化セクションがあるが,これはテストの必須の部分ではない.ランタイムを節約し,メモリ使用を減少させるために,可視化セクションのセルは評価されないようにしてある.これらのセルを評価するためには,そのセルを選び,セル セルのプロパティ を選び「評価可能」にチェックマークを入れる.

熱方程式は熱移動モデルの温度場を解くために使われる.熱移動解析の理論的情報は「熱移動」に記載してある.

メモリ負荷の高い前の結果を保存しないように,履歴保存の長さを0に設定する:

定常テスト

このセクションでは検証のための定常(時間非依存)熱移動PDEモデルの例を示す.

2Dの単一方程式

このセクションでは単一の方程式による2D定常熱移動PDEの例を示す.

HeatTransfer-FEM-Stationary-2D-Single-HeatTransfer-0001

以下のテストは2Dの定常熱解析である.モデル領域は幅,長さ.の矩形である.下の境界では温度は に保たれ,上および右の境界は周囲環境への自然な対流が起るようになっている.残った左の境界は断熱されている.周囲温度と熱移動係数はそれぞれ で与えられる.

テストの参照

[1], A.D. Cameron, J.A. Casey, G.B. Simpson. Benchmark Tests for Thermal Analysis. NAFEMS Documentation.

方程式

熱源のない定常状態熱移動モデルでは,熱方程式の過渡項 および熱源項 はゼロに設定される.固体がモデル化されているため内部速度 もなく,熱方程式は次のように簡約される:

熱移動係数と媒体の熱伝導はそれぞれ で与えられる.周囲温度は に保たれる.

モデル変数とパラメータを定義する:
2Dの定常状態熱移動モデルを設定する:
解法

における参照温度値は で与えられる.

における参照温度値を指定する:
境界条件

下の境界における温度は で固定されている.

下の境界に温度面境界条件を設定する:

上と右の境界は温度 の周囲環境の自然対流にさらされている.

上と右の環境に対流境界条件を設定する:

残った左の境界にはデフォルトの断熱境界条件が適用される.

領域
モデル領域を設定する:
テスト1
PDEモデルを解き,時間/メモリの使用量を監視する:
非アクティブなPDEをテストする:
可視化

以下のセルはランタイムと消費メモリを節約するために評価不可にしてある.これらのセルを評価するためには,セルを選んでセル セルのプロパティを選び「評価可能」をチェックする.

温度場プロットの凡例バーとContourPlotオプションを設定する:
温度場を可視化する:
HeatTransfer-FEM-Stationary-2D-Single-HeatTransfer-0002

次のテストは2Dの定常熱解析を示す.モデル領域は,高熱伝導材料に埋め込まれたセラミックストリップである.

ストリップの両側の境界は一定温度 に保たれる.ストリップの上面は の環境への対流および放射により熱を失っている.下の境界は断熱されるものとされる.

24.gif

テストの参照

[2], Holman, J. P. Heat Transfer Tenth Edition, McGraw-Hill. pp. 111, Example 3-10 (2008).

方程式

熱源のない定常状態熱移動モデルでは,熱方程式の過渡項 と熱源項 はゼロに設定される.固体がモデル化されているので内部速度 もなく,熱方程式は次のように簡約される:

セラミックストリップの熱伝導 ,熱移動係数 , 放射率 は以下で与えられる.

左と右の境界の温度は に保たれ,周囲温度は のままである.

モデル変数とパラメータを定義する:
2Dの定常状態熱移動モデルを設定する:
解法

において,参照温度値[3]は以下で与えられる.

における参照温度値を指定する:
境界条件

左と右の境界では温度は に保たれる.

左と右の境界に温度面境界条件を設定する:

上の境界は周囲温度 の環境にさらされており,熱対流と放射の両方によって熱を失っている.

熱移動係数 対流境界条件を設定する:
熱放射境界条件を設定する:

残った下の境界には断熱境界条件が適用される.

領域

このセラミックストリップの幅は ,高さは である.

モデル領域を設定する:
テスト1
PDEモデルを解き時間/メモリの使用量を監視する:
解を検証する:
可視化

以下のセルはランタイムと消費メモリを節約するために評価不可にしてある.これらのセルを評価するためには,セルを選んでセル セルのプロパティを選び「評価可能」をチェックする.

温度場プロットに凡例バーとContourPlotオプションを設定する:
温度場を可視化する:

次にストリップの上面における熱損失率 を計算する.対流と放射の熱流 は次で与えられる:

上面における熱損失率 を計算する:

セラミックストリップの熱損失率は である.この値はエネルギー保存の法則を使ってチェックすることができる.つまり上面からの総熱損失は,左と右の境界からの伝導熱利得と等しくなければならない:

セラミックストリップの両側の境界からの合計の熱利得 を計算する:

熱利得値 は熱損失率 と一致する.

2Dの軸対称単一方程式

このセクションでは単一方程式の円筒座標における軸対称定常熱移動PDEモデルを扱う.

HeatTransfer-FEM-Stationary-2DAxisym-Single-HeatTransfer-0001

次のテストでは,2Dの軸対称定常状態熱解析を示す.モデル領域は高さが の中空の円筒である.内側の半径と外側の半径はそれぞれ で与えられる.内側の境界では領域を加熱するために一定の熱流 が適用される.外側の境界では温度は に保たれる.残った下と上の境界は断熱されている.

テストの参照

[4], J.M. Owen and R.H. Rogers. Flow and Heat Transfer in Rotating-Disc Systems. Wiley, (1989).

方程式

熱源のない2Dの軸対称定常熱移動モデルでは,熱方程式の過渡項 および熱源項 はゼロに設定される.媒体が固体でありモデルが 方向に回転対称なので,流速 および軸 を含む項もなくなる.したがって熱方程式は次のように簡約される:

モデルの変数とパラメータを定義する.材料の熱伝導率は である:
2Dの定常状態熱移動モデルを設定する:
解法

温度場の解析解は以下で与えられる:

棒の温度場に対する解析解を設定する:
境界条件

内側の境界は一定の内方熱流 に従う.

内側の境界に熱流境界条件を設定する:

外側の境界の温度は に固定されている.

外側の境界に温度面境界条件を設定する:

残った下と上の境界にはデフォルトの断熱境界条件が適用される.

領域
モデル領域を設定する:
テスト1
PDEモデルを解き,時間/メモリの使用量を監視する:
非アクティブなPDEをテストする:
可視化

以下のセルはランタイムと消費メモリを節約するために評価不可にしてある.これらのセルを評価するためには,セルを選んでセル セルのプロパティを選び「評価可能」をチェックする.

温度場プロットの凡例バーとContourPlotオプションを設定する:
径方向の温度分布を可視化する:

中空円筒の温度場を調べる:

における誤差を調べる:

HeatTransfer-FEM-Stationary-2DAxisym-Single-HeatTransfer-0002

このセクションには,軸対称定常状態熱解析を示す,NAFEMSベンチマークコレクションからのモデルが含まれている.モデル領域 Ω は,高さ の3D立体中空円筒の横断面である.内半径と外半径はそれぞれ で与えられる.モデルは,(1)と付けられた境界における固定温度条件 ,(2)における既定の熱流束 ,残りの境界(3)における断熱/対称の3つの異なる境界条件で設定される.

87.gif

テストの参照

[5], A.D. Cameron, J.A. Casey, G.B. Simpson. Benchmark Tests for Thermal Analysis. NAFEMS Documentation.

方程式

ソースのない2D軸対称定常熱移動モデルでは,熱方程式の時間微分項とソース項 はゼロに設定される.媒体が固体でモデルが 方向で回転対称なので,流速 および軸 を含む項も消失する.したがって熱方程式は以下のように簡約される.

モデル変数を定義する:

材料の熱伝導率は である.

材料のパラメータを設定する:
2D軸対称定常状態熱移動モデルを設定する:
立体のパラメータを定義する:
解法

ターゲットとなる位置のベンチマークの結果の温度は である.

参照温度の値を指定する:
境界条件

境界は一定の内向き熱流束 を受ける.

境界に熱流束境界条件を設定する:

The temperature at the boundaries is fixed at .

境界に温度面境界条件を設定する:

残りの境界にはデフォルトの断熱境界条件が暗示的に適用される.

領域
モデル領域を設定する:
テスト1
PDEモデルを解き,時間/メモリの使用量を監視する:
PDEの解を検証する:
誤差をパーセントで調べる:
テスト2

2D軸対称近似で得られた解は,3Dモデルの解と照合することができる.

完全な3D領域を作成する:
3Dモデルを設定する:
完全な3Dモデルを解く:
PDEの解を検証する:
誤差をパーセントで調べる:
可視化

以下のセルはランタイムとメモリ消費を節約するために評価不可としてある.評価できるようにするためには,該当のセルを選びメニューからセル セルのプロパティを選択し,「評価可能」にチェックマークを入れる.

ContourPlotで温度分布を可視化する:
中空円筒の温度場を調べる:

過渡テスト

このセクションでは検証のための過渡(時間依存)熱移動PDEモデルの例を示す.

1Dの単一方程式

このセクションでは単一の方程式を含む過渡熱移動常微分方程式(ODE)モデルの例を示す.独立変数を1個含む常微分方程式は,通常複数の変数を扱う偏微分方程式の特殊形である.

HeatTransfer-FEM-Transient-1D-Single-HeatTransfer-0001

次のテストは,板金内の過渡熱拡散過程を示している.左面の温度 は時間とともに正弦波状に変化し,右面では温度は に固定される.板金は厚さに対して非常に大きいものと想定されるため,解析は厚さに沿った1Dの熱移動モデルに還元される.

テストの参照

[6], A.D. Cameron, J.A. Casey, G.B. Simpson. Benchmark Tests for Thermal Analysis. NAFEMS Documentation.

方程式

熱源のない固体での過渡熱移動モデルでは,熱方程式の熱源項 および内部速度 はゼロに設定される.熱方程式は次のように簡約される:

媒体の密度,熱容量,熱伝導率はそれぞれ で与えられる.

モデル変数とパラメータを定義する:
1Dの過渡熱移動モデルを設定する.
解法

時間 における点 の参照温度は で与えられる.

における参照温度値を指定する:
境界条件

左面では板金は過渡加熱される.ここでは温度は で時間とともに正弦波的に変換する.右面では温度は に保たれる.

領域の両端で温度面境界条件を設定する:
初期条件

時間 における板金の温度は である.

初期条件を指定する:
領域

板金の厚さは で与えられる.

モデル領域を設定する:
テスト1
シミュレーション終了時間 を設定する:
PDEモデルを解き,時間/メモリ使用量を監視する:
PDEの解を検証する:
可視化

以下のセルはランタイムと消費メモリを節約するために評価不可にしてある.これらのセルを評価するためには,セルを選んでセル セルのプロパティを選び「評価可能」をチェックする.

板金内の温度場の変化を可視化する:
HeatTransfer-FEM-Transient-1D-Single-HeatTransfer-0002

次のテストは棒内の過渡熱拡散を示す.左端で一定の内向きの熱流 を設定して冷却過程のシミュレーションを実行する.右端では温度は で一定に保たれる.

テストの参照

[7], H.S. Carslaw and J.C. Jaeger. Conduction of heat in solids. Oxford at the Clarendon Press, Second Edition. (1959)

方程式

熱源のない固体における過渡熱移動モデルでは,熱方程式の熱源項 および内部速度 はゼロに設定される.熱方程式は次のように簡約される:

媒体の密度,熱容量,熱伝導率はそれぞれ で与えられる.

モデル変数とパラメータを定義する:
1Dの過渡熱移動モデルを設定する:
解法

温度場の解析解は以下で与えられる:

棒の温度場の解析解を設定する:
境界条件

左端は,一定の内向きの熱流 で熱を失っている.

左端に熱流境界条件を設定する:

右端の温度は に固定されている.

右端に温度面境界条件を設定する:
初期条件

時間 ではこの板金の温度は である.

初期条件を指定する:
領域

モデル領域は長さの棒である.

モデル領域を設定する:
テスト1
シミュレーション終了時間 を設定する:
PDEモデルを解き,時間/メモリ使用量を監視する:
PDEの解を検証する:
可視化

以下のセルはランタイムと消費メモリを節約するために評価不可にしてある.これらのセルを評価するためには,セルを選んでセル セルのプロパティを選び「評価可能」をチェックする.

板金内の温度場の変化を可視化する:
における誤差を調べる:

2Dの軸対称単一方程式

このセクションでは,単一の方程式の円筒座標系における軸対称の過渡熱移動PDEモデルを扱う.

HeatTransfer-FEM-Transient-2DAxisym-Single-HeatTransfer-0001

次のテストは2Dの軸対称過渡熱解析を示す.モデル領域は半径,高さの円筒である.領域全体の温度はから開始する.外側の領域では温度は に跳ね上がり でそのままに保たれる.

テストの参照

[8], A.D. Cameron, J.A. Casey, G.B. Simpson. Benchmark Tests for Thermal Analysis. NAFEMS Documentation.

方程式

熱源のない固体媒体で熱移動をモデル化する場合,熱方程式の内部速度 および熱源 はゼロに設定される.モデルは 方向に回転対称であるため,軸 を含む項もなくなる.したがって,方程式は次のように簡約される:

モデル変数を定義する:

媒体の密度,熱容量,熱伝導率はそれぞれ で与えられる.

モデルパラメータを設定する:
2Dの軸対称の過渡熱移動モデルを設定する:
解法

では,点 における参照温度値[1]は で与えられる.

における参照温度値を指定する:
境界条件

外側境界の温度は に固定されている.

外側境界に温度面境界条件を設定する:

残った下と上の境界には,デフォルトの断熱境界条件が適用される.

初期条件

時間 において領域の温度は である.

初期条件を指定する:
領域
モデル領域を設定する:
テスト1
シミュレーション終了時間 を設定する:
PDEモデルを解き,時間/メモリ使用量を監視する:
PDEの解を検証する:
可視化

以下のセルはランタイムと消費メモリを節約するために評価不可にしてある.これらのセルを評価するためには,セルを選んでセル セルのプロパティを選び「評価可能」をチェックする.

温度場プロットの凡例バーとContourPlotオプションを設定する:
径方向の温度分布の変化を可視化する:

アニメーションの質を向上させる方法はこちらをご覧いただきたい.

における円筒の温度場を調べる:

テスト結果の検査 

このセクションにはテストランの結果が含まれている.TestResultObjectのすべてのインスタンスを集め,TestReportを生成することで動作する.

ノートブックからTestResultObjectを抽出し,TestReportを生成する:
失敗したテストランを調べる:

上の表が空であれば,すべてのテストが成功したということである.

参考文献

1.  A.D. Cameron, J.A. Casey, G.B. Simpson. Benchmark Tests for Thermal Analysis. NAFEMS Documentation.

2.  J.M. Owen and R.H. Rogers. Flow and Heat Transfer in Rotating-Disc Systems. Wiley, (1989).

3.  H.S. Carslaw and J.C. Jaeger. Conduction of heat in solids. Oxford at the Clarendon Press, Second Edition. (1959).

4.  Holman, J. P. Heat Transfer Tenth Edition, McGraw-Hill. pp. 111, Example 3-10 (2008).