超弾性組織の二軸引張試験

はじめに

二軸引張試験は,材料を特徴付けるための実験的な手法である.このために,長方形の材料標本はフックを固定させるための穴が空いている.フックが引っ張られ両方に力が加わり,結果の変形が測定される.以下の図は,典型的な数のフックで引っ張られる標本である.

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赤くハイライトされているのは設定の対称性である.これは後で計算の複雑さを軽減するために使う.

二軸引張試験の実験的ツールは,高度な測定分解能の他,異方性材料が特徴付けられる直交方向での測定可能性を提供する.二軸引張試験の結果は,超弾性材料モデルを調整するために使うことができる.二軸引張試験は新しい手法ではないが,それを生物材料に適用することは新しい[Fehervary,2016].

このノートブックでは二軸試験の有限要素シミュレーションを実装する.二軸試験は一般に異方性挙動を示すために使われる.簡単にするために,この例では等方性ネオフックモデルを使う.また,文献からの維管束組織の材料パラメータを利用する[Karimi,2013].これによって計算結果と実験結果を比較することができる[Zemanek,2008].

有限要素パッケージをロードし,$HistoryLengthを0に設定する:

2DのFEMモデル

モデルとして,固定された2D平面応力モデルの形式を使う.

モデル変数を設定する:

文献からのパラメータとともに,ネオフック材料モデルを利用する.

等方性圧縮性ネオフックモデルのパラメータ:

形状

フックの標本と位置は対称なので,二つ折りの対称性を使って標本の四分の一をモデル化するので十分である.縮小されたシミュレーション領域の長さと厚さを指定してから穴の半径を指定する.

縮小された形状を設定する.実際の形状は各方向で[-length, length]である:
フックの穴を作成する:
シミュレーション領域を作成する:
メッシュを生成し,可視化する:

モデルの設定

このモデルでは,2つのタイプの境界条件が必要である.縮小されたシミュレーション領域をモデル化する対称条件と,フックの引きをモデル化する境界条件である.フックの引きをモデル化することについては,規定の変位であるパラメータ変数 を使ってパラメトリックソルバを設計することが目標である.パラメータ を使うと,適用される力をゆっくり増加させることができる.このことは,1つのステップでは解けないほど強い非線形の問題であるため,必要である.詳細は,固体力学モノグラフの強非線形の亜弾性モデルおよび変位条件についてのセクションに記載されている.

まず対称条件を見てみる.対称条件は および でそれぞれ適用され,それぞれの方向の変位は0に設定される.他の方向には自由に動く.

対称条件:

フックの引きについては,変位条件も使う.総変位を40%までと指定し,そのための境界条件を設定する.

最大値が の総変位を指定する:

次のステップでは,これらのフックが置かれる場所を指定する.フックは硬く,引きは力が作用している穴の境界の半分で起こる.これを簡単にするために,該当する穴の周りの矩形領域を選ぶ.

変位境界条件の配置:
境界条件の位置の可視化:

これらの矩形領域を利用するために,RegionMemberを使ってこれを固体力学境界条件に適した述語に変換する.RegionMemberの結果には,数は実数でなければならないという制約条件が含まれる.有限要素シミュレーションでは,メッシュ座標は常に実数であるため,Refineを使ってこの制約条件を削除することができる.

境界条件の位置を述語に変換する:

DirichletConditionはメッシュの境界ノードでのみ適用されるので,これらの述語は上の図の赤と緑でハイライトされているように,青い円と色付きの矩形が交わった半円に該当する.

牽引境界条件を作成する:

適用される変位の値はパラメータ で与えられる.また右の述語には,上の述語の変位の0.8倍の変位を使う.二軸引張試験では,材料の特性を測定するためにさまざまな力の設定が使われる.ここでは2方向の間に0.8という係数を任意に選んだ.

PDEモデルを作成する:
パラメトリックソルバを作成する:

解く

超弾性の強い非線形性を持つPDEを解くためには,パレメトリックソルバで十分な回数のステップを使って変位を徐々に増やしていくことができる.さらに各ステップについて応力ひずみ関係を抽出すると,引張試験の実験手順を記述する最終曲線を得ることができる.応力とひずみを抽出するためには,平均されたコーシー応力を使う.

総変位に達するまでのステップ数を設定する:
初期値を設定する:

シミュレーション時間とメモリ使用量を削減するために,ひずみ,応力,応力ひずみ曲線は10ステップ目ごとに計算する.

パラメトリックソルバで解く(これには少し時間がかかる):

後処理

解を得たら,データを処理してサンプルの領域内の応力場とひずみ場を調べることができる.

まず,パラメトリックソルバの各ステップから得られた応力ひずみ関係を観察することができる.また,この曲線と実験データを比較することもできる[Zemanek,2008].

応力ひずみ関係と実験データを比較する:

両方向のフックによる牽引の効果が観察できる.伸張している間のコーシー応力をプロットし,として工学ひずみに関連付けることができる.超弾性材料は40%までの高い変形率を示し,実験データとの高い対応性を見ることができる.このモデルは20%までのひずみには非常によいが,変形率が高くなると事件データから離れ始める.それにもかかわらずこのモデルは維管束組織を記述する上でよいモデルである.データによりよくフィットするためには材料パラメータを最適化すればよいが,こうすることはこのモデルのスコープを超える.

次に応力とひずみを抽出し,もとのメッシュと変形したメッシュの両方にプロットする.

もとの領域の境界を含む変形したメッシュを作成し可視化する:

変形の過程のアニメーションを作成するために,まず最終的な変形の境界を計算する.これらの境界は,すべてのアニメーションフレームが同じプロット領域を使うよう,PlotRange境界として指定する.

最終的な変形の境界を抽出する:
変形過程のアニメーションを作成する:

可視化の品質についての注:高解像度の可視化が得たい場合は,上記のコードのRasterizeの呼出しをコメントアウトする.

応力場とひずみ場を解析するためには,これらの場を解から抽出しなければならない.抽出したらプロットしてさらに解析することができる.

回からひずみ場を計算する:
ひずみ場をプロットする:

標本がどのように伸張しているかを見ることができる.境界条件から想定でき,中央のプロットで観察できるように,変形は上部の穴の方が大きい.せん断ひずみはほぼ対称に見えるが, 方向の変形が大きいため 方向でわずかに不平衡である.

解からコーシー応力場を計算する:

応力場を表すためにはMPa単位を使うのが便利なので,変換率を掛ける.

コーシー応力をプロットする:

方向および 方向で,境界条件による引張状態を反映する垂直応力が見られる.それは穴の周りに集中しており, 方向の方が大きく見える.

ミーゼス応力は材料の応力状態を表すために使われるスカラー値である.これは固体力学モノグラフに記載されているように,応力テンソルのさまざまな成分の重み付き平均を取ることで計算される.

変形したメッシュ上のミーゼス応力を計算する:
変形したメッシュ状にミーゼス応力をプロットする:

ミーゼス応力場は組織内では一般に一様で,穴の近くで高くなることが分かる.これは標本を穴から伸張させる伸張境界条件に関連している.

用語集

参考文献

1.  H. Fehervary, M. Smoljkić, J. Vander Sloten, and N. Famaey, (2016). Planar biaxial testing of soft biological tissue using rakes: A critical analysis of protocol and fitting process. Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials, vol. 61, pp. 135151, https://doi.org/10.1016/j.jmbbm.2016.01.011

2.  Karimi A, Navidbakhsh M, Faghihi S, Shojaei A, Hassani K. A finite element investigation on plaque vulnerability in realistic healthy and atherosclerotic human coronary arteries. Proceedings of the Institution of Mechanical Engineers, Part H: Journal of Engineering in Medicine. 2013;227(2):148-161, https://doi.org/10.1177/0954411912461239

3.  Zemánek, Miroslav & Bursa, Jiri & Děták, Michal. (2008). Biaxial Tension Tests with Soft Tissues of Arterial Wall. 16, https://www.researchgate.net/publication/41842810_Biaxial_Tension_Tests_with_Soft_Tissues_of_Arterial_Wal