波の回折と干渉のシミュレーション

はじめに

波が障害物やスリットに遭遇すると,入射波の一部は反射し残りの部分は変形した形で伝送される.この効果は一般に,波長が回折オブジェクトの次元にほぼ匹敵する波の場合にさらに顕著になる.

次の2Dモデルは音波での従来の単スリットおよび二重スリット実験のシミュレーションを実行する.正弦平面波が領域の底部から入るよう設定する.波の伝播を調べることにより,波の回折と干渉をはっきりと見ることができる.

このチュートリアルで使われる記号および対応する単位は用語集のセクションに要約してある.

音響学の理論的な説明は「周波数領域における音響学」に記載の情報をご参照いただきたい.

有限要素パッケージをロードする.

圧力音響モデル

調和音波の伝播はsource-freeのヘルムホルツ偏微分方程式(PDE) (1)で説明することができる:

変数を定義し,周波数領域音響モデルのパラメータを選ぶ.
音の媒体として空気を使う.
音響PDEの材料パラメータを定義する.

領域

まず,単スリットおよび二重スリット実験のための幾何学モデルを構築する.各スリットの幅は に設定し,二重スリットモデルの分離距離は で定義する.時間調和波は下の境界から領域内に入り,半円形の境界から出て行く.壁境界はで表す.

入射波がスリットに到達すると回折が起こり,回折によりそれぞれのスリットが点の単極音源であるかのように動作する.二重スリットの場合,2つの回折波が互いに重なり合い,干渉パターンを形成する.

立体のパラメータを指定する.
2D領域を定義する.

境界条件

この例には3つのタイプの境界条件が関わっている.下の境界では入力音波をモデル化するために放射境界条件が使われる.

入力音振幅 を指定し,下の境界で放射境界条件を設定する.

半円形境界では出力波をモデル化するために吸収境界条件が使われる.

外側境界で吸収境界条件を設定する.

残りの境界にはデフォルトのsound hard境界条件が使われる.

モデルパラメータの設定

回折パターンは,波長が回折オブジェクトのサイズに匹敵する波でより顕著に現れるので,波長 を使う.

音の波長を指定し,対応する周波数 を計算する.

音響シミュレーションでは,正確な数値解を得るために音波の波長 は十分に細かいメッシュで解かなければならない.ここでは最大辺長を 当たり12ノードに設定する.これは波の伝播の各方向において,波長 について少なくとも12個の要素があることを意味する.

メッシュサイズ を設定する.

単スリットモデル

まず,音波の回折パターンを調べるために単スリットの場合を考える.PDEモデルは有限要素法を使って,NDSolveValueで数値的に解く.

音圧場のPDEモデルを設定する.
単スリットPDEモデルを解く.

単スリットからの音の解析パターンを可視化するために,解は調和波関係(2)で時間領域に変換しなければならない:

時間領域と周波数領域の関係についての情報はここに記載されている.

最大圧力振幅を求め,ContourPlotオプションを設定する.
音の伝播と回折パターンを可視化する.

アニメーションの質を向上させる方法はこちらをご参照いただきたい.

回折効果は入射波がスリットを通過したら見ることができる.波は,平面波から半円境界に向かって伝播する円形波に変形する.スリットは点の単極音源のように振舞う.

二重スリットモデル

次に,2つの回折音波の間の干渉を示すために二重スリットモデルを解く.

二重スリットPDEモデルを解く.
回折波の間の干渉効果を可視化する.

アニメーションの質を向上させる方法はこちらをご覧いただきたい.

二重スリットの場合,2つの回折波が互いに重なり合い,干渉パターンを形成する.数値解を検証するために,最大および最小の振幅の方向についての理論的値を計算することができる[3].2つの波が同相のとき,建設的干渉が起こる.つまり2つの波の経路の違いが波長の整数に等しいということである.反対に経路の差が波長の半分の奇数倍の場合は破壊的干渉が起こる.

角度 で移動する2つの波の経路の差 は次になる:

以下の場合に最大および最小の音響振幅が起こる.

あるいは以下の場合にも起こる.

最大および最小の振幅の角度を計算する.
移動角度が である基準線を設定する.
最大(赤線)および最小(青線)の振幅の方向を調べる.

理論的予想はNDSolveの結果と合致している.

領域内の音の差を調べるために,振幅の極大値を通過する任意の軌道(緑)から音圧値を抽出する.音響ファイルが生成され,領域内のこの軌道に沿ってトラバースする音を捕える.

指定された軌道(緑)から音圧値を抽出する関数を定義する.
間分,軌道に沿った音を生成する.

軌道に沿ってトラバースするため,音は変化する.音量の変化は領域内の音の回折パターンに対応する.

用語集

記号説明単位
ρ媒体の密度[kg/m3]
c媒体内の音速[m/s]
p音圧[Pa]
ω音波の角周波数[rad/s]
f音波の周波数[Hz]
λ音波長[m]
t時間[s]
X位置ベクトル[m]
L平面波領域の長さ[m]
wsスリットの幅[m]
wスリットの深さ[m]
R外側境界の半径[m]
dスリットの分離[m]
n任意の整数N/A
θ波の移動角[rad]
Γin入口境界N/A
Γout外側境界N/A
Ω計算領域N/A

参考文献

1.  Fahy, Frank. Foundations of Engineering Acoustics. Academic Press, 2001.

2.  Norton, Andrew. Dynamic fields and waves of physics. CRC Press, 2000.