レーザービーム溶接

はじめに

レーザービーム溶接(LBW)とは,金属や熱可塑性樹脂を繋ぐために使われる溶接技術である.レーザーは溶接する位置で材料を過熱する,集中型の強いエネルギーを放出する.この例では2枚のスチール板を水平に溶接して1枚の大きいスチール板にする.レーザーは溶接する辺に沿って,時間のでその2枚のスチール板を横断する.このモデルと材料データは[1, p. 114]から取っている.

溶接過程の温度場の変化は熱移動モデルでシミュレーションする.溶接が成功するためには,各刻み幅における最大温度 が,使用される材料の融点より大きくなければならない.このスチール板の場合は である.

オブジェクトが溶接されると,で熱はオブジェクトの表面から周囲への放射で逃げ続け,プレートは周囲温度 に冷却される.プレートの温度を指定の温度 未満にするのに必要な時間 を計算することで,冷却過程を調べることができる.

ここで使われる記号と対応する単位は用語集のセクションにまとめてある.

熱移動解析についての理論的情報は「熱移動」に記載されている.

有限要素パッケージをロードする.

熱移動モデル

熱方程式(1)は熱移動モデルの温度場を解くために使われる:

固体媒体で熱移動をモデル化する場合,熱対流を発生させる流体流れはない.したがって,速度項 が消失して熱方程式は次のように簡約できる:

少量の溶けたスチールによる起る内部対流は熱伝導率よりもかなり弱いため,このモデルではその効果を無視する.

熱移動モデルとスチールの材料パラメータを設定する.
材料の値を設定する.

領域

2枚のスチール板を溶接して長さ ,幅 ,厚さ の1枚の大きいプレートにする.

立体のパラメータを指定する.
3D領域を定義する.

よい結果を得るために,メッシュの生成にデフォルトの格子より細かいものを使う.ここで最大の辺長を に設定する.これは (長さ)方向と (幅)方向に少なくとも100個の要素があることを意味する.

指定のメッシュサイズで領域を離散化する.

熱源

このモデルではレーザーがスチール板を溶接するための熱エネルギーを提供する.これは熱方程式(2)の熱源項 でモデル化される.レーザーを適用するとき,焦点領域のすべての粒子が照射され,同時に加熱される.

レーザー出力 の分布が焦点でガウス分布に従い,(厚さ)方向において均一であると仮定する.レーザー集中の程度を制御するためにパラメータ を導入する.数字が大きいほど集中したレーザーを意味する.

レーザーは合計時間 だけ適用する.レーザーの経路は溶接される辺に従う.これは時間 の関数として表せる:

レーザー出力 ,集中係数 のレーザービームに対する熱源項 を設定する.

独立変数以外のすべてのパラメータが評価される.

初期条件と境界条件

シミュレーションの最初に,スチール板の温度 は周囲温度 と同じであると仮定する.

初期のプレート温度 を設定する.

オブジェクトのすべての表面が周囲領域への放射により熱を失っている.シュテファン・ボルツマン定数とスチールの放射率はそれぞれ で与えられる.

PDEモデルを解く

次にNDSolveで熱移動PDEモデルを解く.

解く熱移動PDEを設定する.
シミュレーション終了時間を定義して,熱移動モデルを解く.

後処理と可視化

レーザー溶接の効果を調べるために,時間とともに変化する温度分布 を可視化する.

温度場プロットの凡例バーとContourPlotオプションを設定する.
スチール板の温度場を可視化する.

アニメーションの質を向上させる方法はこちらでご覧いただきたい.

次に各刻み幅における最大温度 を取り出し,融点 と比較する.溶接処理の間は効果的な溶接のために が必要である.

各刻み幅における最大温度 を抽出する.
の時間プロファイルを可視化する.
プレート温度が融点 より小さくなる時間 を求める.

溶接処理の間,最大温度 は上昇し融点 を上回る.これでレーザー溶接の効果は確認される.では接合されたスチール板は熱を周囲に放射することで徐々に冷却され,で融点を下回る.

用語集

参考文献

1.  Abali B.E. Computational Reality: Solving Nonlinear and Coupled Problems in Continuum Mechanics. Advanced Structured Materials, vol 55. Springer, Singapore. (2017).