熱交換器

はじめに

熱交換器は2つ以上の媒体の間で熱エネルギーを交換することを目的とする機器である.この例では,一連の熱線が流れ場に沈められ,熱源としての役割を果たす.下から冷水が入り,熱線の間を流れ,熱を引き出して熱くなって上から出て行く.

次のシミュレーションは熱交換器内の温度場,圧力場,速度場をモデル化し,自然対流の効果を示す.熱交換器の効率を測定するために,流出流の平均温度を計算する.

ここで使われる記号と対応する単位は用語集のセクションにまとめてある.

熱移動解析についての理論的情報は「熱移動」に記載されている.

有限要素パッケージをロードする.

マルチフィジックスモデル

この問題は数種類の物理領域を考えるものなので,マルチフィジックスモデルを構築する.流体流れの熱移動をモデル化するために,熱方程式をナビエ・ストークス方程式と組み合せる.

熱移動モデル

熱移動モデルの温度場について解くために熱方程式(1)を使う:

熱源のない定常状態熱移動モデルでは,(2)の過渡項 およびソース項 はゼロに設定され,熱方程式は次のように簡約される:

流体 流れによる熱対流は対流項でモデル化される.したがって,液体流れ速度場 は熱方程式の対流項 の入力である.

定常状態2D熱移動モデルを設定する.

流体力学モデル

熱交換器内の定常状態流れ場はナビエ・ストークス方程式(3)で表される.線付近の液体が熱を吸収するに従って,熱膨張により流体は低密度になり上昇する.この温度誘発浮力 は流入速度に加え追加の流れの力となり,(4)の右辺のソース項として現れる:

この浮力の大きさ は変位流体の重さに等しい.つまり流体密度 とその体積を掛けると および標準重力 が変化する.これはブシネスク近似[5]ともいわれる:

ここで

は密度
は重力
は粘度
は熱膨張係数
は圧力
は流入温度である.

2Dの流体力学モデルを構築する.
流体媒体として水を使う.

領域

熱交換器モデルは流れ場に沈められた2組の熱線からなる.熱線が無限長と仮定すると, 方向の温度変位は無視することができる.したがって二次元モデルで十分である.

軸について対称であるため,熱線間の右側だけで領域のシミュレーションを構築すれば十分である.ここではそれぞれ入力および出力境界を表す.熱線境界と対称境界はそれぞれで表す.

立体のパラメータを指定する.
2D領域を定義する.

よい結果を得るために,メッシュ生成にはデフォルトの格子よりも細かいものを使う.ここで最大格子サイズはに設定する.これは 方向(幅)に約10個の要素, 方向(長さ)に約100個の要素があることを意味する.また,入力には厳密演算を使う.これは非常に正確な領域境界を求めるのに役立つ.

指定されたメッシュサイズで領域を離散化する.

境界条件

このマルチフィジックスのシミュレーションには熱移動モデルと流体力学モデルが含まれるため,各物理モードの境界条件をそれぞれに設定する.

熱移動モデル

この熱移動モデルには3種類の境界条件が含まれる.流入口と線境界では温度は に設定される.

流入口と線境界温度面境界条件を設定する.

流出境界条件対称境界条件は両方ともノイマンのゼロ条件なので,これらは流出口と対称境界で適用される.

流体力学モデル

流体力学モデルには4種類の境界条件が関わっている.入口では流体速度が に設定される.

入り口境界で流体速度を設定する.

熱線の境界では,滑りなし流体流をモデル化するために流体速度はゼロに設定される.

線境界で壁/滑りなし境界条件を設定する.

上の境界では出力流をモデル化するために圧力流出境界条件を使う.ここで流出圧力は周囲圧力 と等しく設定される.

流出口で圧力流出境界条件を設定する.

軸について対称であるため,対称境界における 方向の速度はゼロに設定される.

対称境界で対称境界条件を設定する.
マルチフィジックスPDEモデルの境界条件を構築する.

PDEモデルを解く

熱膨張係数 ,入口速度 ,標準重力 は以下で与えられる:

流入と熱線の温度はそれぞれ に保たれる.

モデルパラメータを設定する.
モデルパラメータでマルチフィジックスPDEを指定する.

速度が圧力よりも高次で補間されるなら,安定解を見付けることができる.NDSolveを使うと各従属変数の補間次数を指定することができる.ここで速度 および ,温度 を二次補間し,圧力 を一次補間する.

この非線形定常PDEを解くために,解の初期シードを指定することができる.初期シードを指定しない場合は,初期シードとしてすべての従属変数に対してが想定される.ここでは初期シード値をと設定する.

連立のPDEモデルを解き,合計時間とメモリ使用量を監視する.

次のセクションでは,異なる流入速度 と温度 での温度と流れ場を比較する.後で使うために,現在の結果を保存しておく.

比較のために現在の結果を保存する.

後処理と可視化

流体流れ内の熱移動を調べるために,次の可視化で結果の速度場と温度分布を組み合せる.

可視化のための凡例バーとContourPlotオプションを設定する.

上の温度の可視化には破線の領域がある.この領域は次の可視化で拡大する.

縮小されたセクションの温度分布と流れ速度場を可視化する.Visualize the temperature distribution and the flow velocity field from a reduced section.

プロットの質を向上させる方法はこちらをご覧いただきたい.

線周囲の上昇した温度は,線の後方の流れをスピードアップする大きな浮力になる.線が熱せられていない場合(「熱せられていない線の周囲の流れ場」セクションを参照),水は線の後方をゆっくりと流れる.

熱交換器の効率を測定するために,流入口と流出口の間の平均の温度上昇を計算する:

流出口における平均温度を計算する.

熱交換器を使うことで流れの温度が だけ上昇した.

異なる流れ条件での熱交換を調べるために,モデルパラメータを微調整して同じモデルを再利用することができる.その手順は「上昇した流入速度を伴う熱交換器」に記してある.

熱せられていない線の周囲の流れ場

比較として,以下のセクションでは熱せられていない線の流れ場について解く.領域内に熱移動がないため,シミュレーションは流体力学PDEモデルのみで行われる.

流体力学PDEモデルに同じ境界条件を使う.
CFDモデルを解き,合計時間とメモリ使用量を監視する.
比較のため現在の結果を保存する.
流速場を可視化する.

プロットの質を向上させる方法はこちらでご覧いただきたい.

熱せられた線と比較すると,線の背後の流れをスピードアップする追加の浮力はない.

上昇した流入速度を伴う熱交換器

異なる流れ条件のもとでの熱交換器のシミュレーションを実行するために,流入速度を から に上昇させる.

流入速度 を上昇させるためにモデルパラメータを更新する.
修正されたモデルパラメータでマルチフィジックスPDEを設定する.

更新された熱移動モデルを効率的に解くために,新しい解の初期シードとして遅い流入場の結果を使う.そうしないと,非線形ソルバが収束しないモデルになってしまう.非線形性の少ないモデルを先に解いてその解を非線形性の強いモデルの初期シードとして使うというのが一般的なストラテジーである.

連立PDEモデルを解き,合計時間とメモリ使用量を監視する.
比較のために現在の結果を保存する.

前の結果を初期シードとして使うことで計算時間が減少した.非線形性の少ないモデルからの初期シードは,非線形ソルバにとってよい初期条件になる.非線形性の強いモデルの解を求めるには,そこからわずかなステップしか必要ない.

異なる流入速度の流れ場を比較する.

プロットの質を向上させる方法はこちらをご覧いただきたい.

における線の背後の流速を調べる.

シミュレーション領域の横断面 における流速 を比較すると,次のような結果が得られる.左の では,熱せられていない場合(緑)で流速は負になる.これは線の背後の渦を意味する.熱せられた遅い流入の場合(青)流速は正で,熱せられた速い流入の場合(オレンジ)より速い.浮力の効果は熱せられた遅い流入の場合に比較的大きくなる.それに対して右境界の では熱せられていない場合(緑)の流速の方が熱せられた遅い流入(青)の場合より速い.熱せられた遅い流入の場合(青)の場合だけ,線の背後の流速が右の境界よりも速くなる.

用語集

参考文献

1.  H. Fugmann, P. Di Lauro and L. Schnabel. Heat Transfer Surface Area Enlargement by Usage of Metal Textile Structures Development, Potential and Evaluation. International Textile Conference, Dresden; TU Dresden, Ed. (2016).