鉄骨の熱負荷
はじめに
熱応力とは温度変化によって誘発される応力であり,オブジェクトの破砕や変形に至ることがある.次のモデルでは鉄骨を左で固定し,上面における一定の内向き熱流束 で加熱する.右端は断熱されると仮定して,左面と底面は に保つ.
加熱の過程で,上面の温度は徐々に上昇する.結果の温度勾配により熱応力が生成され鉄骨が下向きに曲がる.
熱移動モデルと構造力学モデルを使って,温度場の変化と熱によって誘発される変形の連続的なシミュレーションを実行する.その後水平変位と鉛直変位の場所と値を計算する.
ここで使われる記号と対応する単位は用語集のセクションにまとめてある.
熱移動解析についての理論的情報は「熱移動」に記載されている.
マルチフィジックスモデル
このアプリケーションには熱移動モデルと構造力学モデルの2種類の物理領域が関わっている.構造的変形だけが温度に依存し,温度場はこのモデルのオブジェクトの変形には依存しないため,2つのモデルの結合は一方向になる.この種の問題はマルチフィジックスの順次モデルとみなされ,2つのステップで解く.
まず,鉄骨の温度場 のシミュレーションを行うために熱移動モデルを構築する.その後で構造力学モデルを構築し,すでに計算された温度場を使って熱によって誘発される変形を示す.これは逐次シミュレーションと呼ばれるもので,物体が結合し直すことなく熱分布に影響及ぼさないため可能である.逐次モデルは一方向の結合がある場合に可能である.別のアプローチとして,1つのPDEモデルで温度場と変形の両方をモデル化するというものがある.完全結合モデルについて話す.
このアプローチでは,まず熱方程式を考えてから固体力学方程式を考える.
熱移動モデル
熱源のない過渡熱移動モデルの場合,(2)の熱源項 はゼロに設定される.固体がモデル化されるため内部速度 も消失し,熱方程式は次のように簡約される:
構造力学モデル
構造力学では,平面応力(3)はオブジェクトの変形を説明する.ここで「薄い」と言うのは他の次元のオブジェクトに対して薄いという意味である.2つの従属変数 , はそれぞれ 方向, 方向の変形を表す.材料データとして,ヤング率 およびポアソン比 を指定する必要がある.
平衡方程式(4)は方向と方向の力平衡を表すが,これは構造力学モデルの支配PDEとして使われる.右辺の および はオブジェクトに作用する可能性のある任意の外力をモデル化する.
このモデルでは,鉄骨に適用される外力は温度誘導の熱負荷だけであり,右辺のソース項として平面応力PDE(5)に結合される.熱負荷 , の大きさは,熱応力方程式によって温度 と熱膨張係数 に関連している:
は密度,
は熱容量,
は熱伝導率,
はヤング率,
は熱膨張係数,
はポアソン比である.
領域
よい結果を得るために,メッシュ生成にはデフォルトの格子よりも細かい格子を使う.ここで最大の格子サイズをに設定する.これはおおよそ1000要素があることを意味する.
PDEモデルを解く
次のセクションでは鉄骨の温度場 のシミュレーションを実行するために,まず熱移動モデルを解く.次に熱により誘導される変形を示すために構造力学モデルを構築する.
熱移動モデル
鉄骨内の熱流束を調べるために,時間とともに変化する温度分布 を可視化する.
アニメーションの質を向上させる方法はこちらに記載されている.
上面における内向きの熱流束 のため,鉄骨全体での温度差は3時間未満()でに上昇した.
この温度プロファイルが分かったので,鉄骨への対応する熱負荷を計算することができる.次のセクションでは構造力学モデルを使って鉄骨の変形を解く.
構造力学モデル
このモデルでは,温度により誘発される熱負荷が鉄骨に及ぼす唯一の外力であり,右辺のソース項として平面応力PDE(6)に結合される.熱負荷 , の大きさは,熱応力方程式により温度 および熱膨張係数 と関連付けられている:
熱負荷の効果を調べるために以下の可視化で結果の構造変形と温度場を組み合せる
後処理と可視化
構造変形を示すために,与えられた補間関数に基づいて鉄骨に対する変形要素メッシュを生成する.
アニメーションの質を向上させる方法はこちらに記載してある.
次に鉄骨の最大変形を求めるために,コンポーネント , を等高線プロットで可視化する.
鉄骨の最終的な変形を示すために,シミュレーションの終了時間 で変形要素メッシュと結果の補間関数を設定する.
鉄骨の最大の変形は右上で生じていることが分かる., の最大値を取り出し, 方向と 方向での厳密な変形量を示す.