微分代数方程式

はじめに

電気回路,化学反応速度論等におけるある現象を司る方程式系には,微分方程式と代数方程式の組み合せたものが含まれる.微分方程式は系の力学的進化に関与し,代数方程式はある多様体の解を制約する.よって,このような微分代数方程式の解の研究には,興味深いものがある.

以下は微分代数方程式の簡単な例である.最初の方程式は関数x[t]の常微分方程式である.2つ目の方程式は,関数x[t]y[t]- 空間の部分多様体(直線)に存在するよう制約する:

ここでの説明は,線形微分代数方程式に限定する.これは,以下のタイプの方程式系として定義される.

ここで は独立変数 の行列関数, のベクトル関数,は未知関数のベクトルである.行列 が非特異(逆にできる)行列であるなら,この系は常微分方程式系である.行列 が特異行列ならば,微分代数方程式である.

ならば,系は同次であるという.常微分方程式では,微分代数方程式の一般解は対応する同次系の一般解および非同次系の特殊解で構成される.

DSolveは行列 および の要素が定数であるすべての微分代数方程式の解を見付けることができる.DSolveが使うアルゴリズムは, を非特異のベキ零行列に分解することが基盤となっている.この分解は, の一般化された逆行列を計算するのに使われ,実質的に問題を常微分方程式系を解くことに還元される.

微分代数方程式の初期値は,その問題に解があることを保証するように注意深く指定しなければならない.これは,次の方程式系を考えると分かる.

これにより,以下が求められる.

従って,一意解は

となる.しかし,この解は初期条件 に矛盾する.

DSolveを使って解くことのできる定数係数微分代数方程式の例は,「微分代数方程式の例」を参照のこと.

微分代数方程式の例

次は簡単な定数係数同次微分代数方程式である:
以下のようにして一般解を見付ける.この系では,2番目の方程式が x[t]y[t]との関係を指定しているので,任意定数が1つしかない:
解を検証する:
上記の例から導いた非同次系である:
一般解は,対応する同次系の一般解と非同次方程式の特殊解で構成される:
上記の方程式の初期値問題を解く:
これは,解と制約(代数)条件のプロットである:
以下の微分代数方程式では,非同次部分が非常に一般的である:
ここでは,解に自由度がない(つまり,任意定数がない).それは,z[t]が代数的に与えられており,x[t]y[t]は微分を使って z[t]から一意に決定することができるからである:
この例では,代数制約が暗示的に存在している.3つの方程式はすべて未知関数の導関数を含む:
未知の関数の導関数に関するヤコビアンは特異であるので,それについて解くことはできない:
この問題では,一般解の任意定数の小さい方の数(3ではなく2である)により,微分代数的な性質が明確である:

高階の導関数を持つ系は,一階の系に還元して解く.

以下は,定数係数二階同次微分代数方程式の一般解である:
この非同次常微分方程式系は,上の例に基づいたものである:
上の方程式系の初期値問題である:
解をプロットする:
最後に,三階常微分方程式を持つ系である.係数は厳密な数値なので,計算にはやや時間がかかる:

非線形の微分代数方程式,あるいは非定数係数を持つ微分代数方程式の記号解法は難しい.このような系は,Wolfram言語関数のNDSolveで数値的に解くことができることがよくある.