音響ホーン
はじめに
音響ホーンは,音伝達の効率性を最大化することを目的とした音を誘導する先細のものである.これは楽器や補聴器等,音の送信および受信のどちら側でも使うことができる.
音響ホーンの性能を数量化する方法として,ホーン内の音反射の量を評価するというものがある.次のモデルは周波数 から までの音響ホーン内の音響伝播のシミュレーションを行う.その後,反射波の平均振幅として定義される反射強度指標(IRI)を周波数スペクトル全体で計算して,ホーンの音響的性能を示す.
ここで使われる記号とそれに対応する単位は用語集セクションに要約してある.
音響学についての一般的な理論は,「周波数領域における音響学」に記述された情報をご参照いただきたい.
圧力音響モデル
調和音波の伝搬は,source-freeのヘルムホルツ(Helmholtz)偏微分方程式(PDE)(1)で記述することができる:
領域
音響ホーンの幾何学的モデルは,幅 の半無限のサウンドチャンネルと,自由端における幅 の円錐形の終端部の2つの部分からできている.この形は平面に垂直な方向において無限であると想定されるため,このモデルを二次元シミュレーションに縮小する.
軸についての対称性のため,ホーンの上半分のみでシミュレーションの領域を構築するのが効率的である.壁境界と対称境界にはそれぞれ,の記号が使われる.
音響学のシミュレーションでは,正確な数値解を得るために,十分に微細なメッシュで音波の波長 を解く必要がある.ここでは最大辺長を につき12ノードと設定する.つまり音響伝播の各方向において,波長 に対して少なくとも12個の要素があるということである.
境界条件
この例には3つのタイプの境界条件が関わっている.入力音波をモデル化するために,音の入口で放射境界条件を使う.
出力円筒波をモデル化するために,外側境界に吸収境界条件を指定する.
壁境界と対称境界では,デフォルトのsound hard境界条件が使われる.
PDEモデルを解く
周波数範囲上で音響ホーンの性能を分析するために,ParametricNDSolveValueで繰返しPDEを解く.
後処理と可視化
音圧分布
音響ホーン内部での音響伝播を可視化するために,調和波関係(2)を使って解を時間領域に変換する:
時間領域と周波数領域の関係についてはこちらをご覧いただきたい.
アニメーションの質を向上させる方法はここに記載されている.
音響学チュートリアルで説明した通り,2つの媒体の音響インピーダンスが一定でない場合,音波の一部は界面で反射される.音響ホーンは,反射された音波が削減されるように[3],導波管 とその周囲の空気 の間のインピーダンスを合致させる変成器としての役割を果たす.反射された残りの波は,波のチャンネル内でチラチラした音圧パターンとなる.
次に,比較として曲面状の音響ホーンを分析する.ホーンの形状を平滑化することによって,波の反射をさらに少なくすることができる.
アニメーションの質を向上させる方法はこちらでご覧いただきたい.
矩形の音響ホーンとは異なり,曲面状の境界は音響インピーダンスの勾配を滑らかにする.
次のセクションでは,音響ホーンの音響反射を数量化する方法を示す.
反射強度指標(IRI)
音響ホーンの性能を測定する数量の一つに反射強度指標がある.これは音の入口における平均の反射波の絶対値として定義される.反射強度公式は以下で与えられる:
予想通り,ほとんどの周波数上で曲面ホーンの性能の方が勝っていた.反射スペクトルは数ヶ所の深い窪みを伴って減衰するパターンで現れる.これは音響ホーンが高い周波数でより効果的であることを示している.窪みは音響ホーンの共鳴周波数に対応しており,音響伝送がより向上する.「固有周波数」と呼ばれる共鳴を示す特定の周波数がある.指数関数ホーンやマルチセルホーン[4]等の高度な設計を使うと,低い周波数でのホーンの効果を向上させることができる.
用語集
記号 | 説明 | 単位 |
ρ | 媒体の密度 | [kg/m3] |
c | 媒体中の音速 | [m/s] |
p | 音圧 | [Pa] |
ω | 音波の角周波数 | [rad/s] |
f | 音波周波数 | [Hz] |
X | 位置ベクトル | [m] |
a, b, l, d | 幾何学パラメータ | [m] |
Γin | 導入孔境界 | N/A |
Γsym | 対称境界 | N/A |
Γwall | 壁境界 | N/A |
Γout | 遠方場境界 | N/A |
Ω | 計算領域 | N/A |
θ | 音響ホーンのフレア角 | [rad] |
J | 反射強度 | [m] |
参考文献
1. E. Bängtsson et al. Shape optimization of an acoustic horn. Computational Methods in Apply Mechanics and Engineering. 192 (2003) 1533–1571.
2. F. Negri et al. Efficient model reduction of parametrized systems by matrix discrete empirical interpolation. Journal of Computational Physics. 303 (2015) 431–454.
3. K. Bjørn. Horn Theory: An Introduction. audioXpress. (2008).