タングステン線のジュールの法則

はじめに

ジュールの法則は抵抗加熱の法則としても知られており,電流がオブジェクトを通過するときに電気エネルギーが熱エネルギーに変換される現象を表す.この法則は電気ヒーター,白熱電球、ヒューズ等の機器でよく見られる.

次のモデルでは電圧 をタングステン線に適用する.ジュールの法則により線内で熱が生成される.生成された熱の一部は周囲の空気への熱対流および熱放射により側面から放散される.残った熱は両端の電極パッドに向かって伝搬し,熱伝導によって線を出る.両端の電極パッドはヒートシンクのような働きをし,線を周囲温度 にまで冷却する.

電位場 および合計の熱生成 のシミュレーションは定常電流モデルで実行する.これらの結果に基づいて,熱移動モデルで温度分布 をモデル化する.最後に各表面からの熱損失量を計算して比較する.

ここで使われる記号と対応する単位は用語集のセクションにまとめてある.

熱移動解析および電流解析についての理論的情報は「熱移動」,「電流」にそれぞれ記載されている.

有限要素パッケージをロードする.

マルチフィジックスモデル

この問題には定常電流モデルと熱移動モデルの2種類の物理学領域が関わっている.温度場は電位に依存するが電位場は温度に依存しないため,この2つのモデルの組合せは一方向性のものである.この種の問題は順次のマルチフィジックスモデルと考えられ2つの異なるステップで解かれる.

まず線内の電位場のシミュレーションを行うために定常電流モデルを構築する.次に熱移動モデルを構築する.これは線のジュールの法則を示すために先に計算した電位場を使う.

タングステン線の材料パラメータを設定する.

定常電流モデル

このモデルでは電位場 が温度 に関係しないと想定される.つまり電気伝導率 は常に一定値に保たれるのである.電位場は定常電流連続方程式を満足する:

ここで は電気伝導率(単位)である.

3D定常電流モデルを設定する.

熱移動モデル

熱移動モデルの温度場について解くためには熱方程式(1)を使う:

定常状態熱移動モデルの場合,(2)の過渡項はゼロに設定される.固体をモデル化するため,内部速度 も消失し熱方程式は次のように簡約される:

ここで

は密度
は熱容量
は熱伝導率である.

3Dの定常熱移動モデルを設定する.

領域

タングステンの半径は である.シミュレーション領域および線の幾何学的形状は次のプロットで表せる.

27.gif

立体のパラメータを指定する.

次にタングステン線の経路を指定することによって3D領域を構築する.

線の中心線を指定して可視化する.
3Dタングステン線を構築する.

これで境界メッシュ領域と完全な要素メッシュが生成できる.よい結果を得るために,メッシュ生成にはデフォルトの格子よりも細かい格子を使う.

シミュレーション領域を離散化する.

次のセクションでは境界条件を設定し,両端と両側の熱流束を計算する.このために関数leftEndQおよびrightEndQを定義し,点が対応する面にあるかどうかを判定する.

関数leftEndQおよびrightEndQを定義し,線の端点の位置を表す.

離散化された領域の数値誤差のため,両側に許容誤差 を適用する.

PDEモデルを解く

次のセクションでは,線の電位場 のシミュレーションを実行するためにまず定常電流モデルを解く.その後,電流の加熱効果を示すために熱移動モデルを構築する.

定常電流モデル

定常電流モデルには2種類の境界条件が関わっている.線の両端には電位差 を適用する.

線の両端に電位境界条件を設定する.

残った境界にはデフォルトの電気絶縁境界条件 を使う.

モデルパラメータで定常電流PDEを指定する.
NDSolveで定常電流PDEモデルを解く.

次にタングステン線内部の電位場 を可視化する.

電位場プロットの凡例バーとContourPlotオプションを設定する.
電位場を可視化する.

電気伝導率 は線全体で同次なので,電位は左 から右 に線形に減少する.

今の電位場 を使って,電流によって生成された対応する熱を計算することができる.次のセクションでは熱移動モデルで定常状態温度場 について解く.

熱移動モデル

電熱生成は,右辺の熱源項 (電磁熱源)として定常熱方程式と組み合される.

ジュールの法則(3)によると,オブジェクト内で生成された熱はその伝導率 と電位の傾きの2乗の積に等しい.

電磁熱源 を設定する.

熱移動PDEモデルを解く前に,電磁熱源 の分布を調べるとよい.

電磁熱源 の凡例バーとContourPlotオプションを設定する.
線の横断面()における電熱生成 を調べる.

線内の角の部分では電流密度が高いため,ほとんどの熱はそこで生成される.合計の電熱生成 は体積積分で計算することができる.

合計の電熱生成 を計算する.

総熱生成は である.次に定常状態温度分布について解くために熱移動モデルを構築する.

熱移動モデルには3種類の境界条件が関わっている.線の両端では温度は周囲温度 に固定される.

周囲温度を設定する.
線の両端で温度麺境界条件を指定する.

側面ではタングステン線は熱対流と熱放射により熱を失っている. シュテファン・ボルツマン定数,放射率 ,熱移動係数 は次で与えられる:

NeumannValue対流境界条件を設定する.
モデルパラメータで熱移動PDEを指定する.

後処理と可視化

ジュールの法則を調べるために,タングステン線内の温度分布 を可視化する.

温度場プロットの凡例バーとContourPlotオプションを設定する.
温度場を可視化する.

線の中ほどで温度は最大値の に達する.しかし両側では,温度は周囲温度 で維持される.

次に,その領域上の境界積分を計算することにより,線の両側の熱損失を計算し比較する.熱移動チュートリアルで示したように,熱伝導率,熱対流,熱放射による熱流は以下で与えられる:

境界積分の境界要素メッシュを構築する.
左端の熱伝導による熱損失を計算する.
右端の熱伝導による熱損失を計算する.

温度分布はタングステン線について対称なので,熱伝導の量は両端で同じである.ここで差分 は数値誤差であり,より細かいメッシュを使うことで低減することができる.

タングステン線の両側面における熱放射による熱損失を計算する.
タングステン線の両側面における熱対流による熱損失を計算する.
タングステン線の総熱損失 を計算する.

以下の表は熱伝導,熱対流,熱放射による熱損失を要約したものである.タングステン線は生成した熱のほとんどを両端の熱伝導で失うことが分かる.

    

電力 [W] 割合 [%]
熱伝導16.2843.8
熱対流13.2435.7
熱放射7.6120.5
総熱損失37.13100

タングステン線の総熱損失は である.この値はエネルギー保存の法則を使って検証することができる.つまり定常状態では,総熱損失 は内部の熱生成 に等しい.

前に計算された統計の電気熱生成 を調べる.

最終的な熱生成 は総熱損失 と一致する.というわずかな差は,熱生成を計算するために両方の場合で使用した有限要素メッシュの離散的性質により引き起こされた数値誤差である.より細かいメッシュを使うことで数値誤差を小さくすることができる.

用語集