同心球コンデンサ
はじめに
このチュートリアルでは,静電気の応用を示す.この例では図の1で表される内球,図の3で表される空洞の外球,図の2で表される内球と外球の間の領域にある誘電体で構成される同心球コンデンサを見る.ここでは,有限要素法を使って電位分布を再生し,その結果を静電容量の解析解と比較する.以下のスケッチはコンデンサの形状を3Dで示したもので,各領域の材料が異なる色で表されている.
通常,3Dのコンデンサの偏微分方程式モデルを作成するためには3Dの静電方程式が使われる.この場合,形状と境界条件が を含めどの軸についても回転対称なので,このコンデンサをモデル化するためには2Dの軸対称静電方程式を使うことができる.軸対称モデルには,時間とメモリの計算コストが完全な3Dモデルを解く場合より少なくて済むという利点がある.
静電方程式
静電気はポワソン方程式でモデル化することができる.2Dの軸対称ポワソン方程式は以下で与えられる:
ここで は単位の電位, は単位の材料の絶対誘電率, は単位の体積電荷密度である.
軸対称ポワソン方程式は,円筒座標の代りに,独立変数を持つ切頭円筒座標系を使う.この座標系は 軸について回転対称なので,円筒座標変数 は消失する.詳細はDiffusionPDETermをご覧いただきたい.
このチュートリアルで使われる記号と対応する単位は用語集セクションにまとめてある.
モデル
モデルは多層の球で構成される.最も内側の層である内導体球は半径が での電荷を持つ.次の層は誘電層であり,から r2までである.これが関心のある層である.外側の層,外導体球は r2 から r3までである.外球は地面に接続されており,電位はである.
どちらの導体も異なるが,一定の静電状態を持つ.これは各表面の電位も一定であるが異なるということである.このシミュレーションの目標は,誘電層の電位の分布を計算することである.
領域
誘電体の領域は軸対称な円環である.外部の境界は誘電体と導体の間の接触面を表す.
まず,領域の次元を定義し,ToElementMeshで要素メッシュを生成する.
パラメータの設定
次に材料パラメータと2Dの軸対称静電方程式を設定する.これには比誘電率 ,無次元数,電荷 が含まれる.
ElectrostaticPDEComponent関数は静電方程式の軸対称形式を生成することができる.このためにはパラメータ"RegionSymmetry"を"Axisymmetric"に設定する.
境界条件
ここで考える境界条件にはDirichletConditionとNeumannValueの両方が含まれる.ElectricPotentialConditionは円環の外側の境界 において,地面との境界の電位 を指定する.ここでは点要素マーカーを使ってElectricPotentialConditionが適用される場所を指定する.
外側の境界には,点要素マーカー3が割り当てられている.マーカー割当てアルゴリズムは,角でどのマーカーを割り当てるべきかを知り得ないので,一意のマーカーがそこで割り当てられ,角のノードがディリクレ境界条件の一部かどうかが選択できるようになる.
上の左角には過度の点要素マーカ―8が,下の左角には点要素マーカー7がある.これらの場所にも電位条件が適用されるようにしたい.
点要素マーカーはDirichletConditionに使われる.NeumannValueでは境界要素マーカーが使われる.ElectricFluxDensityValueは円環の境界 において表面電荷密度 (単位は)を指定する.これは内導体球を持つ電荷を表す.
この場合の 軸のような対称軸上にある境界上では,対称境界条件を扱うのでノイマン0値が指定されなければならない.ノイマン0境界条件は自然なデフォルト境界条件なので,この条件は省くことができる.
モデルの評価
NDSolveValueでPDEの数値解を計算する.
可視化
軸対称モデルから完全な3D解を可視化するためのアプローチの一つに,補間関数を適用してデータを3D領域で可視化するというものがある.言い換えると,データの回転プロットを行うのである.RegionPlot3Dを使って,pred が半径 の球の方程式となっている3D領域を示すプロットを作成し,3Dのデータ点から2Dの解関数にマップする色関数を指定する.
検証
ここで は内導体球を持つ電荷であり,は導体間の電位差である.
ここで は半径 と によって区切られる誘電層の比誘電率である.
詳細は[Hayt & Buck, 2012]をご参照いただきたい.静電容量を計算する別の方法は静電気学モノグラフの「静電容量」セクションに挙げてある.
2D軸対称モデルを検証する別の方法として,それを完全な3Dモデルと比較するというものがある.
このグラフは2D軸対称モデルが完全な3Dモデルと一致していることを示している.
用語集
参考文献
1. Hayt, W. H., & Buck, J. A. (2019). Engineering electromagnetics. McGraw-Hill Education.