触媒コンバータ
はじめに
触媒コンバータは,内燃機関からの排気ガス中のある汚染物質を減少させる排ガス規制装置である.触媒の助けにより,一酸化窒素や一酸化炭素等の分子が酸化され,環境への害が幾分少ない物質に変換される.
この研究では,触媒コンバータ内の分子の物質輸送および時間に伴う進化のシミュレーションを作成する.この例でモデル化する触媒コンバータは,それぞれに触媒 を持つ2枚の平行平板(活性表面)からなる.分子を含むガスは底から領域に入り,反応する平板を通過し,上部からコンバータを出て行く.この間平板付近の分子は継続的に酸化され二酸化炭素になる.
後処理のセクションで,流入口と流出口の間の濃度の正味減少を計算して,コンバータの性能を測定する.
このために,境界におけるの平均濃度をNIntegrateを使って境界積分で計算する.
触媒コンバータモデルは,時間 から までで構築し,解く.それからシステムがいつ定常状態に達したかを判定する.
ここで使用するシンボルとその単位は用語集セクションに要約してある.
熱移動解析の理論的背景については物質輸送チュートリアルの情報をご参照いただきたい.
物質輸送モデル
質量輸送モデルで濃度分布 について解くためには,質量保存から導出される保存輸送方程式(1)を使う.
ここで
は輸送された種の濃度,
は種の拡散率,
は媒体内部の可能な流れの速度場,
は物質生成/消費,つまり種の体積反応速度である.
このモデルでは,一酸化炭素の反応は活性表面上のみで起り,質量流束境界条件でモデル化される.コンバータ内では他の反応は起らないので,体積反応速度 はゼロに設定され,輸送方程式は以下のように簡約される.
領域
触媒コンバータモデルは2枚の平行反応平板からなる.平板の奥行きが長さと幅よりかなり長ければ, 方向の濃度の変化は無視できる.したがってこの3D反応器を表すには2Dモデルで十分である.
軸について対称であるため,反応器の右半分だけをシミュレーション領域として使うのが効率的である.ここでとは流入口と流出口を表す.活性表面と対称境界はそれぞれ,で表す.
流れの形態
このモデルでは,排気ガスは平均速度 で反応器を流れる.このガス流が層流か乱流かを判定するために,領域内のレイノルズ数を調べる.
ここで,ガス流の密度と速度はそれぞれ ,で与えられる.代表長さは反応器の長さ として取られる.
したがって,反応器内の流速 は解析層流プロファイルで決定することができる.
初期条件と境界条件
シミュレーションの最初に,一酸化炭素が初期濃度 でコンバータ内に一様に分散される.
この物質輸送モデルには4種類の境界条件がかかわっている.流入口では濃度は に固定される.流入口の下には の無限の供給量がある.
上の境界では,分子が領域から出て行く流出口をモデル化するために流出境界条件を使う.
活性表面上では,一酸化炭素は触媒 によって吸収・変換される.これは質量流束境界条件でモデル化することができる.
ここで質量流束 は分子の吸収速度を表し,それ自身の濃度 ,残りの触媒サイトの濃度,反応速度定数 に比例する.
反応中に一酸化炭素の各分子が厳密に1つの触媒サイトを占めると仮定すると,残りのサイトの濃度はアクティブなサイトの合計濃度と吸収された一酸化炭素によって閉められたサイト数の差に等しい.
対称境界には,デフォルトの対称境界条件が陰的に適用される.
PDEモデルを解く
時間の経過に伴う分子の輸送およびその進化を解析するために,PDEモデルを から まで解く
後処理と可視化
まず触媒コンバータの効果を調べるために,時間の経過とともに進化する濃度 を可視化する.
アニメーションの質を向上させる方法はこちらをご覧いただきたい.
触媒 が存在すると,右境界(活性表面)付近の分子は継続的に吸収され二酸化炭素に変換されて,結果的に層のような濃度場になる.この濃度場の層の太さは時間の経過とともに大きくなり,でその定常状態に達する.
濃度はこの層の外側ではほとんど変化しないので,「デッドスペース」といわれる.デッドスペースを最小限にし全体的な変換効率を向上させるために,触媒コンバータは平行平板ではなくハニカム(蜂の巣)形状で作られることがよくある.
システムが定常状態に達する厳密な時間を決定するために,WhenEventを使って濃度場 が既定の閾値内で収束したかどうかを調べることができる.
この場合,濃度の微分が未満になるとシステムは定常状態にあると言われる.
分子が流れの方向で変化する様子を見るためには,垂直線 に沿って濃度をプロットすることができる.
,,の曲線はほとんど重なっている.これはシステムがすでに定常状態に達していることを意味する.
触媒コンバータの効率を測定するためには,流入口と流出口の間での正味減少量を計算する.これは境界における平均濃度を境界積分で計算する.
2つの値はほとんど同じである.これによりシステムが 後に定常状態に達したことが証明できる.